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魔女のカケラ

 投稿者:リムル・ダーク  投稿日:2003年12月 7日(日)21時34分23秒
  「かつて、『降魔戦争』期、闇の軍勢に一人の魔女がいた」
闇へと落ちていた、彼女の意識は、その声によって、次第に覚醒する。
(私は・・・マテルとの戦いで、意識を失って・・・?)
「彼女は、戦争の敗北を確信した際、己を幾つもの『カケラ』に分け、転生しようとしたが、結果、それは、失敗に終わった」
(この声は、シャドー・スラッシング?)
「この地に眠る肉体も、限りなく彼女に近い存在であったものの、その身に心を宿してはいなかった。故に、心ない者に、肉体を利用されないよう、封印してきた」
「何の・・・話をしているのですか?」
マリアの声に、シャドーは、小さく感嘆の息をつく。
「すでに喋れるまで、肉体と接続されたのか?やはりオレの見立てに、間違いはなかったわけだ」
「だから、何の話を・・・」
そこまで言葉にして、彼女は、シャドーの言った言葉の意味と、自分の感じる違和感に気がついた。
マテルとの共有感覚が無くなっている。否、マテル自身を心の内に感じ取れない。
「一つの肉体に、二つの心というのは、かなり不安定な状態だ。だからオレは、より主に近い心の存在である君を、その肉体に移した」
「つまり・・・この身体は、貴男の主のカケラと言うことですか?」
「元々、君達二人も、主のカケラから生まれた存在故に、拒絶反応は無いと思っていた。君を選んだ理由は、もう一つある。それは、あの肉体の主導権は、マテルの方が強いと言うことだ」
「ちょっと待ってください。今・・・貴男はなんと言いましたか?」
「君達は、かつて闇の軍勢にいた魔女のカケラ。不完全な転生により生まれし、不安定な生を持つ者。それが君達だ」
そして、シャドーは、自分の持つ記憶を、彼女に語り始めるた・・・
 

目覚め。そして、幻夢。

 投稿者:リムル・ダーク  投稿日:2003年11月21日(金)04時22分9秒
  ふと、目が覚めた。
いつものベットの中で、そして、いつもの時間に。
ただ違うのは、その目元に涙の痕があったこと。
「えっ・・・」
戸惑いの声を上げ、マテルは、周りを見渡す。
白竜亭の自分の部屋だった。それ以外のどこでもない。けれど・・・
「・・・・・・」
この喪失感と、もどかしさは、いったい何なのだろうか?
いつもの日常。退屈なようで、少しだけ刺激的な日常。小鳥のさえずりと、淡い朝日の差し込む窓。
「・・・夢?」
ぽつりと呟いてみてみるものの、それは、あまり意味をなすものでなかった。つまり、自分の泣いていた理由には、たどり着かない。
だいたい「今まで」と、何が違うというのか?

「どうしたの?マテル君」
「え?」
昼の休憩時間に、ボー、としていたマテルの顔を覗き込むような形で、ウエイトレス姿のクリスが声をかけてきた。
「悩み事?」
「えーと・・・」
軽く頭を振りながら、マテルは、小さく笑いながら言う。
「いえ。なんでもないんです」
「?」
不思議そうに、小首を傾げるクリスを見ながら、マテルは心の中で呟く。
『自分でも、何を考えたいのか、ぼんやりして分からないし』
いや、おそらく自分は、今朝なぜ自分が泣いていたのか、その理由を知りたいのだろう。すっぽりと抜け落ちた、夢の内容を・・・
「まるで・・・幻夢みたいだなぁ」
ぼんやりと、そんなことを呟くマテルを、やはりクリスは不思議そうに眺めていたが、しばらくして、肩をすくめてカウンターの方に去っていった。
マテルは、またぼんやりと虚空を見上げながら、呟く。
「夢なんて、目覚めれば、ほとんど忘れているのが普通だし」
理屈では、分かっている。けれど・・・
「けど・・・何でボクは、こんなに思い出そうとしてるんだろう?」
曖昧なイメージすらなく、全くの白紙となった夢を、マテルは、ただひたすら、虚ろに求め続ける・・・
 

出口は遠く・・・。

 投稿者:mephisuto  投稿日:2003年11月19日(水)00時02分44秒
  あれからどのくらい歩いたのだろう。
ただただ永遠と思われる薄暗く長い一本道。
さすがのセラも幾多の戦闘で傷ついた体では限界が見えてきた。もうずいぶん前からステラの肩を借りて歩いている状態である。
いい加減出口が見えず、心配になってきたのかステラの表情もこわばってきた。秘蔵のポーションも既にそこをついている。
「ねえ、大丈夫?少し休まない?」
セラの耳元でそうつぶやいた。
「あぁ、少し座ろうか・・・。」
生気の無い声ではあったが、まだ意識ははっきりしているのがわかると彼女は安心したのか、
「なんか昔を思い出すわね。貴方がこんなに弱っているのはあのミッション以来ね」
そういいながらステラはセラを壁際に座らせた。
「あのミッションか・・・。こんなときにいやなことを・・・。」
「ふふっ。こんなときじゃないと貴方にはこんなこと話せないじゃない。ここは、覚悟して話を聞くのね。」
それはもう5年は昔のことになるのであろうか・・・。
初めてこの2人が出会ったときの話である。
まだセラは駆け出しのヴァンパイアハンター。直感と異常なまでに優れた反射神経、そして剣技。経験がないので仕方が無いといえば仕方の無いことだが、半ば自殺行為とも思える手段で「貴族」(ヴァンパイア、その昔は地域ごとの首領としてヴァンパイアが統治していた地方もあったため「貴族」と畏怖される呼び方がある)と戦っていた。
そんな時、ある地方の「貴族」が100年の時を越えて開放されたという情報が入り、ギルドから討伐要請が来たのであった。そのときの相棒としてはじめてステラは彼と知り合うことになる・・・。
「もうその話はやめようぜ!」
少し恥ずかしそうにセラは言った。
「ふふ。」
彼女は得意げに微笑むと
「少し休みなさい。何かあったら起こすから。」
そういって、彼を横にすると自分の腿を枕にさせた。
 

マテリアルと言う名の意味は・・・

 投稿者:リムル・ダーク  投稿日:2003年11月18日(火)00時17分11秒
  夢を見ている。
いや、それは、記憶なのか?それとも、無秩序な断片?
ただ一つ言えることは、それは『今』でなく、『過去』の『欠片』にすぎないと言うこと。
マテルは、ガラス越しに、二人の会話を、聞いていた。
「・・・これは、人が越えてはならない領域ではないのか?」
「これは、異な事を言いますね。最終段階を迎えようとしている今、何を恐れているのです?」
「私は、君のように、全てを割り切ることは出来ない」
最初の声は・・・間違いない。マテルの父であるディルスの声。そして、聞き慣れぬ、もう一つの声の主は、薄く嘲るかのように笑っていた。
「マテリアル・・・我が娘、か」
「そうです。その名の示す意味は、古くに忘れ去られています」
「・・・この子が真なる名を知ったとき、それは終わりを意味するのか?」
「ありえませんね。あくまで欠片でしかないことは、貴男もご存じのはず。故に私は、手を引くのです」
「新たな欠片を、探すために?」
「どうですかね?」
ディルスは、苦々しい表情で、男を睨み付ける。
「J・J。君は、何を求める?そして行き着く先は、どこだ?」
「それが分かれば、苦労しませんね。だからこそ私は、また彷徨うのですから」
「もう、会うことは・・・」
「無いでしょうね。お互いを、すでに必要としてないのですから」
踵を返し、歩み去ろうとした男は、ふと何かを思い出したかのように、振り返り、ディルスに声をかけた。
「私の研究書物は、全て貴男に進呈しますよ。何かの役に立ててください」
「・・・あぁ」
ディルスは、もう男を見ていない。ガラス越しのマテルを、寂しさの籠もった目で見つめ、ぽつりと呟く。
「ようこそ。我が娘よ・・・」
マテルの目は、静かにその言葉を、胸に刻みつけていた。
だからなのか?マテルの表情を宿さぬ目から、ポロポロと涙が零れる。
否。涙を流すは・・・『今』の自分。

「あ・・・れ?」
頬を伝うその涙の意味を、理解出来ず、戸惑った表情のまま、マテルは、泣き続ける。
胸の奥底から、込み上げる、悲しみとも虚無感とも言える、感情の本流に、マテルは、声を上げた。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!」
ただ今は、泣き続けたい。意味など考えずに、ただ感情のままに・・・
洋館の中を、マテルの泣き声が、木霊していた。
 

復活の予感

 投稿者:mephisuto  投稿日:2003年11月 9日(日)22時10分30秒
  構想一年とうとう復活の日はやってくるのか・・・。
いや、俺は止めたよ。
 

真相

 投稿者:magunasu  投稿日:2001年11月29日(木)23時14分35秒
  (いったい・・・どういう事?)
マリアは、目の前で起こるその現象に言葉を無くしていた。
自分の最大級の攻撃魔法を食らって、平然と立ち上がり、今度は、たった一言の言葉で信じがたい芸当を、やって見せたのだ。

「・・・癒せ」

その言葉の直後に、マテルの身体を淡い光が包み込み、見る見るうちに傷が消えていく・・・それも、衣服の、破れた傷もである。
(決して、神聖魔法ではない。それはハッキリしているけれど・・・)
それ以上のことは分からない。魔法ですらないのかも知れない。心の内でそう呟いてみると、ゾクッ、とした寒気が全身を、駆け抜けた。
勝てない・・・その事実に、身体から力が抜け、目の前が暗くなり、前のめりに倒れる。
気丈に振る舞ってはいたものの、その身に負ったダメージは、深刻なものだったのだ。

ポスッ。

軽い音と共に、床に倒れる寸前で、彼女は、マテルに抱きとめられ、そして、暖かい光に包まれながら、マリアは、意識を失った。

マリアをソファーに横たえながら、マテルは、軽く息をついた。マリアの傷も、しっかりと治されており、今では安らかな吐息をついている。
分かってしまえば、それは、当たり前のことだった。
種も仕掛けもない。マテルが急に強くなった訳でもない。ましてや眠っていた能力に覚醒した。などといったバカらしい事でもなかった。
(要は、ここがボクの『精神世界』の一部に、造られた館だって事なんだから)
そう。限りなく現実に近い世界ではあったが、ここは、マテルの心の中だ。ゆえに、マテルの望んだ事は、容易に実現出来る。ただ、第三者の干渉があるのか、全てが可能と言った訳ではない。
(でも、マリアさんよりも、ボクの方が干渉力が強くて助かったよ。これで、無意味な戦いをする必要が無くなったしね。けど・・・)
根本的なところが、何も解決していない。今だ戻らぬ記憶の一部。そして『覚えのない記憶』とマリアの関係。そもそもマリアとは、いったい何なのだろうか?
そして、どうすれば、現実の世界に戻ることが出来るのか?問題は、山積みだ。
「う~ん・・・とりあえず、マリアさんが目を覚ますのを待ってようかな?」
精神的優位は、余裕をもたらす。彼女は、マリアの向かいのソファーに腰掛け、しばしの休息を楽しむのだった。
・・・お気楽な性格とも言う・・・・・・
 

対決の行方

 投稿者:magunasu  投稿日:2001年11月28日(水)00時38分19秒
  轟音と共に、雷撃がマテルの肩を貫いた。その衝撃に弾き飛ばされながらも、マテルは、素早く体勢を立て直し、相手の懐へ飛び込む。
「燃えさかりし炎よっ!我が腕に宿り、牙となせっ!!」
スピードの乗った右拳の正拳付きは、炎を纏いマリアの腹に突き刺さる。
「必殺・・・フレイム・ブローッ!だいぶ堪えるでしょ・・・?」
雷撃のダメージに、脂汗を流しながらも、マテルは、笑みを浮かべてみせた。対するマリアは、今だブスブスと煙を上げる服の上から、腹部を押さえつつ、ユラリと立ち上がる。

(・・・魔法ではマリアさんが断然有利だけど、体術じゃボクの方が上。互いに打たれ強い訳じゃないから、大きなダメージを食らったらダウンだね)

意外と冷静に、状況を判断しながら、マテルは、二つの疑問を心に抱いていた。

(何で・・・ボクの「詠唱速度」が急に上がったんだろう?)

先程唱えた「フレイム・エンチャント」や、相殺させることの出来た「マジック・アロー」。彼女の詠唱速度では、本来こんな芸当は出来るはずがない。なんと言っても、マリアの詠唱速度を上回っているのだから。

(それと、何故マリアさんは、低レベルの攻撃呪文しか使わないんだろ?手加減してる?確かに、最初に、ボクを殺しはしないって言ってたけど・・・それだけの理由なのかなぁ?)

「・・・ずいぶんと余裕のようですね?なら、この呪文は、どうですっ!!」
今までとは、桁違いの精密かつ圧倒的な、魔法の構成にマテルは息を呑んだ。
「凍える息吹よ、吹き荒れよ!白きその手で敵を抱き、うち砕け!!」

(広範囲魔法?!それも「ブリザード」の呪文じゃないか!!)

今までの単発系魔法と違い、広範囲に広がるこの攻撃から、逃れる術はない。
全てを凍てつかす冷気の嵐。ナイフのごとく鋭い切れ味を見せる、拳大程の氷が、マテルの身体をズタズタに切り裂き、渦巻く風の音が彼女の悲鳴を掻き消す。

「・・・少し、やりすぎましたか?」
全身傷だらけで、白い霜に覆われてしまったマテルを見て、マリアは、小さく舌打ちする。殺してしまっては、元も子もないのだから。
しかし、そんな不安も、あっさりと裏切られた。

「・・・・・・こんな攻撃、ボクには効かない」
「えっ・・・」
ゆっくりと顔を上げるマテルは、マリアを怯ませるほど力強い眼差しで、更に告げる。
「もうボクには勝てないよ。全てを理解したから」
その笑みは、けっして死にかけの者が見せる、ソレとは違っていた・・・・・・
 

マテルVSマリア

 投稿者:magunasu  投稿日:2001年11月26日(月)00時37分53秒
  熱波を伴い、それは、虚空を切り裂き、標的へと襲いかかる。が、マテルは、すんでのところで、それを回避し、片膝を付いた状態で、掌を敵に向けた。
「我求めるは、光り輝く、一条の矢っ!」
力ある言葉は、直ぐさま具現し、マリアに向かって放たれた。
その行動を、静かに見つめながら、彼女は、目の前の空間を、手で払う。たったそれだけの行動で、マテルが放った魔法は、光の残滓を撒き散らし、消え去った。
相変わらずの冷笑を浮かべたまま、その言葉は、死刑宣告のように、無情に響く。
「力尽くでも、貴女には、協力してもらいますよ」

(対魔法防御壁・・・それなりの使い手なら、誰でも備えている力だけど、まさか無力化するほど強力だなんて・・・それとも、ボクの力が未熟すぎるから?)

素早くその場に立ち上がりつつ、マテルは、頬を伝う汗を無造作に拭った。より強力な魔法を使うには、今よりも長い詠唱が必要だ。しかし、そんな隙を彼女が見逃すだろうか?
マリアの詠唱スピードは、マテルのそれを遙かに上回っている。もし仮に、同じ呪文を、マテルの後から唱えたとしても、完成は、彼女の方が早いはず。
「安心して下さい。殺すつもりは、ありませんから。その手足を、使い物にならないように、封じるだけ。痛みは、伴うかも知れませんけど、ね」
手で口元を隠しながら、クスクスと笑う彼女は、素早く印を組み、魔力の矢を生み出した。金色に光るエネルギーの塊が、今度は二つ生まれ、マテルの左右から襲い来る。
一瞬の迷いの後、彼女は、体勢を低くとりながら、疾走し、早口に呪文を唱えた。魔力の矢は、すでに眼前まで迫り、命中するのは、疑いがなかった。
「行けっ!」
が、命中する直前、マテルの放った同種の呪文が、右のエネルギー塊と接触し炸裂。その爆風に乗って、マテルのスピードが、グンッと高まり、左から迫っていた、魔力の矢は、マテルが一瞬前まで居たポイントを抉る。
「なっ!」
驚きに身を固くするマリアに、マテルは肩から突っ込んだ。メキッ、と嫌な音と共に、激痛が走る。両者は、互いに床の上を滑り、距離が離れた。

「やって・・・くれますね・・・」
朦朧とする意志の中、その声にハッとし顔を上げると、向かいの壁によりかかりながら、マリアが立ち上がるのが見えた。その表情は、怒りのため朱に染まっている。その口元からは、鮮やかな血の筋が滴り、ある種妖しげで、壮絶な雰囲気を醸し出していた。
マテルも、悲鳴を上げる身体に鞭を打ちつつ、ヨロヨロと立ち上がる。
誰も頼ることの出来ない戦いは、まだ始まったばかりなのだ・・・・・・
 

消滅

 投稿者:MEPHISTO  投稿日:2001年11月25日(日)23時39分32秒
  「消えた。」
セラは突然にして今まで感じ取っていた気が消えたことを感じた。それはあまりにも突然の出来事で、失われたというよりも突然に消えた  感じであった。
立ち止まったセラは後ろを振り返り遅れたステラを待つ。
「ちょっとぉ~。突然走り出さないでよ!!」
彼女はそう怒鳴りながら走ってきた。
「すまん。」
いつになく素直に謝るセラに少々戸惑いながらも
「もうここも飽きてきたわね。出口はまだなの?」
セラは、呆れたように
「初めての場所なのにそんなこと知るわけないだろ。」
と、冷たく言い返した。
「ごもっともなお返事で。」
ステラは落胆の色を隠せなかった。
 

記憶の欠片

 投稿者:magunasu  投稿日:2001年11月24日(土)23時28分1秒
  荒い息を吐きながら、また一つマテルは記憶を取り戻していた。
「大丈夫ですか?」
優しげな声音を造りながら、私は、マテルに手を差し伸べる。たかがあれっぽっちの『情報』でこれほど疲労するなんて、笑ってしまいますね。
私達の目の前には、白いキャンバスが、今まさに、色あせ消えていこうとしていた。
このキャンバスこそ、マテルの記憶が形を持ったモノ。ここに至るまで、マテルの過去を、私は追体験していた。
(どういったつもりなのか知りませんが、ずいぶんともったいぶった演出をしてくれますね)
マテルの過去など、私にとってはどうでも良いことなのに。私が知りたいのは、シャドー・スラッシングが持っている記憶という名の情報だけ。
「少し、休んでいきましょうか?」
「ボクなら、だ、大丈夫」
フラフラとしながらも、ハッキリとした意志でマテルは立ち上がる。出来ることなら私一人で、片っ端から、記憶を解放していきたいというのに・・・忌々しいことに、このキャンバスの封印は、マテルがいなければ解くことが出来ない。
「さっ、次のキャンバスを見つけようっ!」
「・・・無理はしないで下さいね」
心配そうな表情を浮かべてみるものの、あまり上手くいかない。唇の端に、薄い笑みが浮かぶのが自分でも分かる。それをマテルに悟らせないようにしながら、私は、心の内で呟く。
(せいぜい頑張ることですね。私のためにも・・・)

「お薬?」
「そうだよ。これを飲めば、貧血も治る。だから我慢して飲むんだよ」
これは・・・マテルが10才頃の記憶?
まるで劇でも見ているかのように、私の目の前で記憶が再生される。まだ幼いマテルに、錠剤を渡し飲ませているのは・・・父親のディルス。私にとっては、憎しみの対象でしかありませんでしたけど。
そう、アレは、決して貧血の薬などではなく・・・・・・

「・・・そうだ。昔は、貧血を度々起こしていたから、定期的に薬を飲んでたんだっけ。すっかり忘れてたよ。でも・・・いつ頃から飲まないようになったんだろう?」
「・・・・・・」
小首を傾げるマテルの視界の外で、私は、小さく舌打ちしていた。
(余計な記憶を・・・これ以上「関連」する記憶が蘇れば、マテルは気付いてしまう。私との関係に・・・)
私の危惧は、それから程なく起こった。

「・・・・・・お前は、何者だね?」
「何がですか?お父様」
険しい表情のディルスに向かってマテルは、薄い笑みを浮かべ惚けてみせる。いや、これは・・・マテルじゃない。
「まさか・・・彼の言っていた・・・・・・なのか?」
小さなその呟きは、耳に届かない。だから『私』は、ディルスに尋ねた。
「私の事を、ご存じのようですね?なら教えて下さいませんか?」
「断片的な記憶しか持っていないのか・・・自分の名も分からない?」
「・・・えぇ。でも、名前がないのも不便ですから、私の事は・・・・・・」
これは私が初めて『外に出た』時の記憶・・・・・・

「いい加減にしなさいっ!!」
私の叫びが、狭い部屋の中に響く。唖然とした表情のマテルが、ビクッ、と体を震わせ、恐る恐ると言った感じで、私に顔を向けた。
「い、今の記憶って・・・いったい何だったんですか?」
「・・・」
「マリアさんっ!」
「・・・気にする様な事じゃありませんよ。何者かの、たちの悪い悪戯でしょう。それよりも、先を急ぎましょう」
私の差し出した手を払い除け、彼女は、一、二歩後ずさる。怯えた表情で・・・
「マテル?」
「マリアさんは、嘘を付いてる・・・何を隠してるんです?何を知っているんですか?!」
「・・・」
「何故、ボクの名前を知っていたんですか?」
「それは、自己紹介したから・・・」
「違う。ボクが名乗るよりも先に、マリアさんは、ボクの『本名』を知ってた」
怯えの表情は、やがて険しいものへと変わっていく。それを見つめながら、私は、フッ、と小さく息を吐きながら、笑って見せた。
もう隠す必要もなくなった、いつも通りの、薄い冷笑を・・・
 

以上は、新着順1番目から10番目までの記事です。 1  2  3  4  5  6  7  8  |  《前のページ |  次のページ》 
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