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「無視」

 投稿者:wataru  投稿日:2007年 9月 6日(木)16時24分30秒
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   ちょうど深い眠りに入りかけた時、携帯の着信音がけたたましく
鳴り響いた。こういう時、「あれ、もう朝か?」と思ったりして、あたふた
目覚まし時計や照明のリモコンを手探りで探したりして、実にまぬけである。
電話の主はガールフレンドの美雪。「天目刺峠を車で走っていたら、タイヤが側溝に
はまってしまい、抜け出せなくなってしまった。なので助けに来て」とのことだった。
時刻は夜中の2時。おいおいおいおい、俺はいつも仕事で5時起きだってのに、
今からダッシュで行ったとしても、天目刺峠までは1時間30分かかる。救出
作業に15分。そんで帰ってきたら5時過ぎるじゃん。ああでもしょうがない。
これは惚れてしまった者の弱みで行かざるをえないのだ。意を決しベットから
跳ね起きると、何かをバリリって踏んだ感触が・・・。部屋の明かりをつけると、
のぉーっ・・・・! 制作途中のガンプラを踏んづけてしまった。チクショー、
でもかまっている暇はない。いそいで車に油圧ジャッキと牽引ワイヤーと角材を
詰め込んで、いざゴー!。

 それにしても美雪はなんでこんな夜中に峠なんか走ってたんだろうか?。しかも
側溝にはまるなんて。マンガの真似でもして失敗したとか?。いやいやそんなことは
無いだろう。美雪の車はポヨサスのお買い物車だ。きっと夜景に見とれていて
落っこちたんだろう。おっちょこちょいな奴だなぁ。今回助けに行くことで、きっと
俺の株は急上昇するだろう。そうでなきゃ割に合わない。

 俺の車は、某遊園地の脇を越えて、森の抜け道に入った。街灯のない未舗装の
その道は、狭くて曲がりくねっているが、一番の近道である。しばらく進むと、
ヘッドライトが照らす先に見慣れぬ物体が浮かび上がった。あわててブレーキを踏み
停車する。行く手をさえぎるように横たわる真っ白い棒状のもの。倒木かとも思ったが
ライトの照り返しが眩しいほどに白く、枝も葉もまったくない。それが道を完全に
塞いでしまっている。乗り越えようにも、大きめの縁石くらいの高さがあるので
無理っぽい。俺は車を降りて、ソレに近づいてみて戦慄した。額から脂汗がどっと
流れ落ちる。白い物体は微かながらノソノソと動いている。巨大な白蛇!?
・・・いや、トカゲの足の様なものが付いている。退化した小さな足がついた蛇を
図鑑で見たことがあるが、形はそれにそっくり。これはそのアルビノ種だろうか?。
それにしてもでかい。全長8メートルはあるかと思われる。俺は車に戻り、そいつが
横断するのを待った。それにしても、東京からそう離れていない場所でこんなものに
出くわすとは。本当は警察か役所かなんかに届けるべきかも知れないけど、深夜だし、
俺自身時間がなかったので、無視することにした。白い怪物が視界から遠ざかると、
俺は再び車を発進させた。時間にして5分ほどのロスが生じてしまった。

 5分のロスを取り戻すべく、俺はさらなる裏道を選択する。国道に対して平行に走る
この道はかえって距離が長くなってしまうが、信号が少なく警察の取り締まりは皆無。
ここでちょっとスピードを出すことにした。さっきとはうってかわって、街灯が
点在し、道は広く明るく、森、草原、川、橋、といった景色が流れていく。裏道が
終わり国道と合流するあたりに生コンのプラントがある。道路標識の無い裏道では
こういう建物をよく目印にする。しかし、今宵のプラントは前に見た時と様子が
違うような気がする。時刻は3時をまわっているというのに、明かりが煌煌と
灯っている。ふと、サイドウインドウから上空を見上げると、なにやらエライ数の
円盤状のものが浮かんでいる。ウインドウを下ろすと フヨーン・・・ フヨーン・・・
と、それらしい音が聞こえてくる。俺は、「こういうもの肯定派」だが、実際に目の当たりに
すると、さすがにビビる。何だろうなぁ・・・ 深夜の生コンプラントというのはUFOの
集会場になっているのか?。数機のUFOはプラントとドッキングしたり離陸したりしている。
はたしてUFOはこっちに気が付いているだろうか?。たとえ相手が「未知との遭遇」の
ような友好的な宇宙人だったとしても、今コンタクトをとられるのは困る。美雪が
天目刺峠で俺を待っているのだ。だけど、このまま立ち去るのももったいないので、
いったん停車し、デジカメを取り出してUFOを撮影。すると突然一機のUFOがこちらに
急接近。写真を撮ったので怒ったのだろうか?。車を発進させ、まこうと思ったが
ふり切れない。身の危険を感じ、デジカメを捨てようと思ったが、それはちょっと
おしいので、中のメモリーカードだけを抜き出して
 「ほら、ここに君らを写した画像が入ってるから、これをやるから勘弁してくれ」
と言って、窓から放り投げた。するとUFOから長いアームが伸びてきてメモリーカードを
拾うと、またプラント上空に戻っていった。まったく「触らぬ神にたたり無し」である。

 その後も俺は、道中いろんなめにあった。トンネル幽霊や日本語がおかしな警察官、
まったくをもって正体不明な名状し難い何かに遭遇したり、カーナビが狂ったりと。しかし、
それらを無視しつづけて、なんとか天目刺峠に到着することができた。イレギュラーな出来事が
起こっても、無視していけば目標は達成できる。俺はそう確信した。もうちょっとで美雪と合流
できるはず。ところが美雪の車がなかなか見つからない。ぐるっと峠を一周してみたが
やはり見つからないので、携帯にかけてみた。すると

 「あっ、来てくれたんだ。今ね、ふもとの自販の前にいるんだ」

さっそく、ふもとのパーキングのところに行ってみた。すると美雪の車は無かったが
そのかわりに、ナウいスポーツカーとでかい4駆が止まっていて、そのかたわらで美雪と
見知らぬ2人の男が、缶コーヒーを飲みなが楽しげにらくっちゃべっていた。そばにより話を聞くと
こういうことだった。美雪はスポーツカーの男にさそわれドライブしていが、その男が
格好つけてドリフトの真似ごとをして、側溝に方輪を落としてしまった。すぐに俺に救援を
要請しが、途中で地元のランクル乗りが通りがかったので、牽引して助けてもらった。
それっていつごろの話なのかと聞くと、2時半頃のことだという。俺が白い蛇と
遭遇した頃だ。今時刻はちょうど4時。うっすら空が白み始めてきた。俺は言いようの無い
虚無感にみまわれた。

 「俺、仕事だから・・・そろそろ変えるわ」

美雪たちは、まるで俺の存在に気付いていないかのように話し込んで、時々大笑いする声が
峠にこだましている。無視かよ・・・・。

  おわり
 
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